シムラタケシ編⑤:鬼と封筒

葉山

さて、ゆみおばちゃんに呼び出された
葉山青年、、、
運命やいかに???






一枚の紙とペンを渡され
今ある借金を全部書き出せと言われたが
俺は何が起こっているんだか
全く把握できていなかった。


ご飯を食べに行こう
そう言われてお邪魔した
ゆみさんの家で
予想だにしない展開が待っていた。


初対面の時に
あれだけ優しかったゆみさんが
今俺の前で、静かな鬼となっている。


19歳、上京したての頃
東京の右も左も分からず
杉並の下井草に住んでいた俺の元に


ゆみさんが手紙を
送ってくれたことをきっかけに
食事に誘ってもらった。


これが初対面だ。


ゆみさん:「公亮くん、よー東京に出てきたねー
     おばちゃんも昔は歌を歌ってたから
     頑張るんだよー^^」


葉山:「ありがとうございます!!」


ゆみさん:「何か困ったことがあったら
     いつでもおばちゃんに相談しなさいね
     美味しいご飯が食べたくなったら
     いつでも連れて行ってあげるからねー」


なんて心強い人なんだ
初めて会った俺にそんな言葉を
投げかけてくれるなんて。


俺の中で
とっても優しいゆみおばちゃんは
当時40歳。


おばちゃんと言っては失礼極まりなく
俺はゆみちゃん、ゆみちゃんと呼んでいた。


そんな初対面から3年
今目の前にいるゆみさんは
俺が最初に抱いた優しい人ではなく


タバコをくゆらせながら
俺を絶対に逃さないと
鋭い眼光を向けた鬼だった。


ゆみさんの本当の優しさを知るまでに
さらに数年かかってしまうのは
言うまでもない。


「借金??ですか??」


とすっとぼけてみたのだが
すっとぼけ過ぎたようで
俺は火に油を注いでしまった。


ゆみさん:「あんたね、私は騙せんけんね
     あんたの嘘くらいすぐ見破れる
     正直に書きなさい。」


あ、あ、あんたね、、、
だと、、、


こっっっっっわ


あの顔は今でも忘れられない。


(母ちゃん、余計なことを言いやがって…)


内心やべーなとは思いつつも
俺はあなたには関係ないでしょ、、、
とも思っていた。


いくら母親との付き合いがあるにせよ
今回会うの2回目なんですけど、、、
血の繋がりもないし、、、


はぁ、説教メシか、、、


そんな気持ちだった。


借金は働いて返すから
ほっといてくれないかな。


親の心子知らずとは
正にこのことだろう。


当時の俺は
親の心どころか
誰の心も分かっていなかったと思う。


これは
誰も俺のことなんて分からないし
分かられたくもないという
一種の反抗というか
不信感の類だったのだろう。



理解の意味を履き違えていた。


この頃の俺は
『自分のことを理解してくれる人』
ではなく

『俺が理解して欲しいこと』
を、理解してくれる人を求めていた。



(なんとかこの場を切り抜けられないか…)


そう考えていたが
いい案なんて浮かぶはずがない。


目の前には『鬼』がいるのだ。


俺は、思い出しながら
その紙にどこにいくら借りているか
全て書いた。


消費者金融やカードローン
ショッピングローンなどで
総額400万円ほどになっていた。


書きながら
自分の情けなさや惨めさ
無力さを思い知った。


これだけ借りていたのか。


毎月の返済ばかり気にして
総額という現実から
どれだけ目を背けてきたかが
書くという行為を通して
解像度が上がっていく。


21歳で400万円…


金額もそうだが
借入先も含めてゾッとする。


当時はそのことが全く分かっていなかった。


ゆみさん:「これで全部ね?」


葉山:「はい、これで全部です。」


ゆみさん:「ホントね??
     これ以上に出て来たら許さんからね?」


葉山:「はい!!!!!」



完全に俺の背筋は伸び切っていた。


人生であんなに正しく正座したことは
後にも先にもない。



紙を見たゆみさんは
ちょっと待ってなさいと言って
リビングを離れ
どこかの部屋に向かった。



戻ってくるまで30秒もなかったと思うが
俺はどっと全身の力が抜け
やっと息を吐けた感覚だった。



この時俺は一つの真理に辿り着いた。


呼吸というのは
『吐く』ことがスタートなのda…



ゆうてる場合ではなかった。



ゆみさんはリビングに戻ってくるなり
俺に封筒を渡してきた。


その封筒を受け取った瞬間
俺は手が震えた。
中身が分かってしまった。


その震えは
申し訳なさなのか
有り難さなのか
何が起きているのか
理解が追いついていないからなのか


いや、このどれかではなく
この全てが理由で
俺は震えてしまった。


お気づきだろう


封筒の中身は



お金だった。




ゆみさん:「そこに200万円入ってる
     私が指定するところに返済してきなさい
     残りの分は働いて自分で返しなさい。」


はい?????


え????


200万円?????


200万円という大金
受け取っていいものなのか


これはどういう意味があるのか


なぜこんなにも大金を
渡してくれるのか…


色んな疑問が一気に押し寄せ
封筒を受け取った両手は
カタカタ震えていた。


か、か、返すべきだよね、、、


えーーーーーー??


どうする?


続く

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