シムラタケシ編③:シムラ君

早速続きを。



工藤は俺の履歴書にサッと目を通した。

21歳当時の俺は
履歴書に書けるだけの
『履歴』なんてものはなかった。

せいぜい幾つかのアルバイト先を書くだけ。



特技や趣味もなければ
資格も普通免許くらいしかない。


工藤:「いつから働ける?」

葉山:「あ、えっと、明日からでも。」

工藤:「そう、そしたら明日から早速来てくれるかな?」

葉山:「あ、えっと、はい。
   分かりました。」

工藤:「んじゃ、よろしく。」


俺の面接はこれだけだった。

一体なにをするのか?
俺は聞く暇もなく面接は終了した。

とその時



男性従業員:「俺外回り行ってきますねー。」

工藤:「あぁ、よろしくー」

葉山:「それでは失礼します、
   明日からよろしくお願いします。」


事務所を出ようとしたんだが
扉が開かない。

(あ、そうか
工藤が鍵を掛けていたんだった。)



男性従業員:「あ、お帰りですか?
      一緒に出ましょうか!」

男性は無言で事務所のドアの鍵を開けると
片手を軽く外に向けて差し出した。

「ありがとうございます。」

そう言って、俺はこの男性と
雑居ビルを後にし、新大久保駅まで向かった。



しばらく無言で歩いたが
俺は恐る恐るその男性に聞いてみた。


葉山:「あのー、一体なんの仕事なんですか?」

男性従業員:「あーーー、仕事ね
      ま、その内分かるよ!!
      誰にでも出来る仕事だから大丈夫!」

男性従業員:「俺、中山、よろしくね!」

葉山:「あ、葉山です。よろしくお願いします!」



中山という男
パッと見た感じは
ホストのような雰囲気があった。

歳の頃は俺より少し年上で
23.4といったところ。

工藤はもう少し上で
27.8だろうか。

長髪に黒っぽいスーツに
ノーネクタイだった。



俺は夜の仕事なのだろうか?
とふと思ったが
それにしては勤務時間の辻褄が合わない。



中山:「葉山さんは、どこに住んでんの?」

葉山:「笹塚です。」

中山:「そうなんだ、んじゃ近いね!
   いつから働くの?」

葉山:「明日からです。」

中山:「そうなんだね
   頑張って続けてよね!」

とても意味深な言い方に
俺はなんと答えていいか分からなかった。



新大久保駅に到着し
切符の販売機へ向かおうとした時
中山がおもむろに財布を取り出し
俺に2,000円を渡してきた。



中山:「これで家まで帰って
   メシでも食べてよ!
   葉山くんには仕事頑張ってもらいたいし!」

葉山:「いや、そんないただけないです。」

中山:「いいから、いいから
   最近仕事続かない人が多くてさ
   なんか葉山くんは頑張ってくれそうだと
   思ったからさ!就職祝い!」

葉山:「は、はぁ、ではお言葉に甘えていただきます。
   ありがとうございます。」


そんなお金
いただくのも怖かったが
電気もガスも止まるくらい
俺はお金がなかったから
その2,000円がとてもありがたかった。


これでメシが食える。


正直、そう思ったのを今でも覚えている。



どんな仕事か全く分からなかったが
生活のため、借金返済のため
俺は働く以外の道がなく

とにかくこの仕事を頑張ってみようと
思いながら家路を急いだ。

何かは分からないが
働かないといけないと頭では分かりつつも

胸の奥底では
いち早くこの場から立ち去らないといけない
そんなことを感じていたからだ。



翌日、俺はこの直感が
当たっていたことを思い知ることになる。



翌朝10時
俺はザワザワする気持ちを抑えながら
時間通りに出勤した。



今日も事務所の扉には
「御用の方はインターフォンを押してください。」
と張り紙がしてある。


俺は昨日と同じように
インターフォンを押し中へ入れてもらった。


「おはようございます!」と
事務所の中に入ったが
そこには工藤の姿も中山の姿もなかった。


中から俺と同じ歳くらいの
若い男性が現れ

「葉山さんのデスクはここです」

と案内してくれた。



俺の向かいには
30歳くらいの女性

右隣には、20代半ばと思われる
中肉中背の男性が
何やらノートを読み込んでいた。

どうやら彼も今日から
出勤している様子だった。


そして、俺を案内してくれた男性は
俺の右斜め前に座っていた。


男性:「葉山さん、このマニュアル
   とりあえず目を通しておいてください。
   あ、田中と言います。よろしくお願いします。」

葉山:「ありがとうございます。
   葉山です、よろしくお願いします。」

軽く挨拶を交わし
俺はそのマニュアルとやらを読み始めた。

そのマニュアルには
テレアポのトークスクリプトが書いてあった。

《私、〇〇会社の◻︎◻︎と申します
この度、年利2〜3%で融資のご案内ができるのですが
現在お借入れなどのご予定はありませんか?》


レンタル業…


それは金貸しだった。


俺の仕事内容は
テレアポでアポを取り
金を貸すメンバーへと引き継ぐことだった。


当時はまだ金貸しというのが
どんな仕事かも理解できていなかった俺は
単純にテレアポの仕事なんだと思っていたが


お昼休憩の後に覆ることになる。


昼休憩後、工藤が事務所へやってきた。

そして、俺の顔を見るなり

工藤:「おう、葉山くん
   今日からよろしくね!
   名前決めて!名前!」

葉山:「え?はい?名前ですか?」

工藤:「そうそう、名前
   ここね、本名使わないから
   だから郵便とかのサインも
   本名書かないでね。」

葉山:「……(マジかよ、、、)」

工藤:「あ、それから
   難しい名前とかもダメだから
   五十嵐とかイカつい感じもダメね。」

葉山:「……(どおりで工藤、中山、田中
    どこにでもありそうな名前
   え?ってことは全員偽名??)」

工藤:「名前、なんにする?
   早く決めてねー」


そんな工藤に対して
俺はとっさにこう答えた。



葉山:「あ、えっとー、
   シムラで、シムラタケシで、、、」

工藤:「おう、シムラね
   んじゃ、改めてよろしく!シムラくん」



この日から俺は
葉山公亮改め
シムラタケシとなった。

続く

PS.
シムラタケシ編、明日明後日はお休みします^^
素敵な年末年始をお過ごしください〜〜!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次